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18年度 短歌研究新人賞応募歌

 
表題 過ぎた時間
 

あきらめは己のあたまの天辺の禿ならずして何というべし

満月はテラテラテラと笑いつつ禿げた頭を照らしてくれる

石組みの井戸の中には青空が水と一緒に住んでおった

不可思議な眠りの中で見た夢が現実となりあらわれにけり

見えぬものあらぬと言えばそれまでよ信じればこそ神もおりたり

信じれば鰯の頭も信心と残った頭に手を合わせたり

万物に神が宿ると思いつつ眺めて見ればなべて尊し

わが家に座敷童が出でこよと用意万端整えてまつ

目の前に突然神が現れて「よろしく」と言ったら信者になる

銀箔の剥がれ落ちたるその後も阿弥陀如来の神々しさよ

奈良漬は貴いお方に喜んで陽の照る晩に差し上げにゆく

木蓮は南無阿弥陀仏の経のごと空にひと花ポツリと咲きぬ

青々と広がる海のその底に過ぎた時間を沈めておいた

おろおろと悲しき心見えぬよに力いっぱい拳をにぎる

お仲間の影も出でこず独りして曇天のした歩いておるよ

暗闇にひとり座って心など見つめるゆとりお許しあれよ

真っ暗な闇を袋に詰め込めどふくろの中は空っぽだった

目の前の三角形の窓すらも眺めておれば身内のようだ

底知れぬ穴の中より青空に叫んでいるよな気持ちですよ

独りごとぶつぶつ言いて世の中の不平不満を晴らしています

狼も逃げ出しほどの雨漏りも今の我にはいかほどもなし

天空に虹が弧をかくその下をもくもく歩く労働者なり

心などさらさら無いが泣き叫ぶ幼子みればあやしたくなる

定形を持たざるものの悲しさよ収まりきれずはみ出しており

ベコニアも雨に打たれてコンコンと枯れる定めを知っておるのよ

紫陽花は色とりどりに咲きおるにいつも寂しき六月の雨

科学とは守りたきもの解き明かす悲しき性を含むものらし

柚子の木が芽を出したゆえ仮そめの命があらば待ち暮らすなり

銀色の翼を持った天使など飛んでこぬかと青空みてる

入り口の扉はいつも開けておくいつでも入っておくんなさい

最後まで読んで下されましてありがとうございます

最初、表題は「鰯の頭」でした