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0年 短歌研究新人賞応募歌

表題 然るべき

 

故郷に帰るあてなき男らに紛れて一人酒場に向かう

悲しみをこの世の果ての極楽に棄てに行ったが帰ってこない

暖かきお茶を一服すするときかくも人とは優しくなれる

ひび割れし茶碗と言えど馴染みおる茶碗となれば棄てられずあり

悲しくて涙を流し歩めども影は一緒に泣いてはくれぬ

落下せし星のくずなどかき集め夢のかけらと合わせてみたり

忠告は畑の中の肥やしなり臭いがとても役に立つなり

口先の三寸さきから愛のある言葉をはいて幸せになる

外人の彼女いまだに居らぬゆえ英語会話は必要はない

足一本腕一本の置きどころ今の私の生き様なのよ

うちうちの祝いの席で飲む酒に歌をうたってはずみをつける

しょうもないことではあるが地蔵(じぞ)さんは今日も動かず座ってござる

黄昏に障子の穴より差しこめる夕日は今日の赤色だった

もしそれがあなたにとって幸せと思うことなら止めたりしない

然るべき時が来たならしっかりと教えてやろうもろもろのこと

人生をちょっとしゃがんで見てみると正直者が座っておった

悶々と眠れぬ夜はつねづねの己が所業を思い浮かべる

幼子は我を選んで生まれきてやすやすとして腕に眠る

野に出でて既に久しい石臼は春の日差しに傾きけぶる

鏡面の埴輪のごとき顔をみてあわてて笑顔つくりなおせり

ぽんぽんと毛を逆立てて喧嘩する野良猫眺め日が暮れてきた

雑草は執着心の手本なりぬけども抜けどもまた生えてくる

うらうらと夕日に染まる黄昏に案山子のごとく立ち尽くしており

今日ひとひ怒らず泣かず驚かず皆仲良く夕焼け小焼け

脈絡のなき事柄の連続が夢の中では物語となる

真実をよそおう嘘があるように嘘のようなる真実がある

こんなこと身も蓋も無いことですが今の私は腹ペコである

じっくりと眺めてみれば人間は不思議な事をするものなのだ

現滅す時の流れをして見ると時間と言うは終始もみえず

ある晩に湯のみ茶碗のなみなみの酒を飲み干し浮世にかえる